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Since2006/06/09 Last update 2006/06/09 by nakamura
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  暫定憲法(6) 首相権限強化と道徳主義
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 No.070518182728552442    07/05/18(Fri) 18:27   by  tanigawa [変更] [削除]
第9編 財政手続
財政については,王室と王室会議への支出がすべて削除され,新たに国家人権委員会(National Human Rights Commission)関係の予算が追加された。予算関係法案提出も国王ではなく財務大臣となった。

宗教団体の財産については,私的なもの以外は,法律で規制される。

他の部分に大きな変更はないが,国王と王室会議の予算がなくなり,宗教団体財産の法的規制が強化され,そのかわり国家人権委員会予算が計上されたところに,この憲法の性格がよくあらわれている。


第10編 司法
司法についても,国王は完全に排除され,裁判官には「人民運動と民主主義の精神」に則り職務を遂行することが義務づけられた。最高裁判所長官は,憲法会議の勧告に基づき,首相が任命。辞表も内閣に提出する。

最高裁の管轄権は,軍事にも及ぶ。旧憲法では,軍事裁判所に介入できなかったが,その規定がそっくりなくなり,したがって特別の規定がない場合は,軍隊内の事柄にも最高裁は介入できることになった。

司法委員会については,弁護士会も弁護士を委員として推薦できる。

この編の末尾には,憲法制定議会裁判所の規定がおかれている。この裁判所は,選挙関係の問題を審理する。憲法制定議会選挙に関しては,この裁判所に請願を出さない限り,他の裁判所では審理できない。

憲法制定議会選挙は,あまりにも複雑な方法であり,問題多発の可能性がある。しかし,選挙が始まったら,選挙を妨げるような訴訟は全面的に禁止される。問題が未解決のまま残され,選挙そのものの正統性が危うくなる可能性もある。

この編では,全体として,司法に対する首相と弁護士会の影響力が大きくなった。これも暫定憲法の性格をよく示している。


第11編 権力乱用調査委員会
委員長と委員は,国王でなく首相が任命する。資格に,「高い道徳的資質(high moral character)」が追加された。精神規定だが,趣旨は理解できる。

調査対象については,90年憲法は軍隊法に服する公務員を除外していたが,この憲法ではその規定を削除し,調査できるようにしている。

他は,旧憲法と同じ。


第12編 会計検査院長官
憲法会議の勧告に基づき,首相が任命。資格に「高い道徳的資質」追加。年次報告書は首相に提出。他は,ほぼ同じ。


第13編 公職委員会
委員長と委員は,首相が憲法会議の勧告に基づき任命。公務員の採用,処遇等が任務。委員資格は,90年憲法では公務員経験10年以上であったが,この憲法では20年となった。また,「高い道徳的資質」を追加。

対象外の公務員は,軍,武装警察,警察,及び法律で文官職から除外された職。これは旧憲法通りだが,これらについても従うべき人事の一般規則を示すことができるようになった。

また,公営企業(政府持分50%以上)からの求めに応じて人事問題につき助言できる。


第14編 選挙管理委員会
首相が,憲法会議の勧告に基づき,委員長と委員(4名以内)を任命する。委員資格に「高い道徳的資質」追加。

権限については,憲法制定議会選挙での立候補者の資格が争われたとき,最終決定は選挙管理委員会が行うとされた。先の憲法制定議会裁判所との関係がよく分からない。

いずれにせよ,先述のように憲法制定議会選挙の候補者選抜方法はあいまい複雑であり,争いがあれば,泥沼化する。選挙そのものの正統性が疑われかねない。選挙管理委員会は難しい任務を負わされた。

一方,選挙区画確定に関する規定は,すべて削除。法律に委ねるということだろうが,これこそ憲法で原則を示しておかないと,もめるのではないか。なぜ削除したのか,理由は不明。ただし,憲法制定議会選挙の小選挙区制は,現行法によるとされている。


第15編 国家人権委員会
暫定憲法で新たに追加。憲法設置機関となった。
(構成) 
  委員長=最高裁の元長官または元判事,又は人権・社会活動に顕著な貢献をした者
  委員(4人)=人権・社会活動に顕著な貢献をした者
(資格)学士号をもち,「高い道徳的資質」をもつ者。
(任命)首相が,憲法会議の勧告に基づき,任命。任期は6年。
(職務)人権の保護,促進。そのための調査,勧告。人権関係諸法の調査,改正勧告。人権条約への加盟促進と履行監視。「人権侵害者human rights violator」の調査,記録,公表。
(権限)人権問題調査については,裁判所と同じ権限をもつ。人権侵害の疑いのある場合は,事前通告なしに,あらゆる所に立ち入り,捜査できる。人権侵害に対しては,賠償命令を発する。軍隊法の管轄事項については,管轄権はない。ただし,人権侵害救済は,何をもってしても妨害できない。
(年次報告書)首相に提出し,首相が議会に提出する。

――以上のように,国家人権委員会は,人権問題に関する広範な権限をもつ機関である。権限は立法,行政,司法の領域に及ぶ。運用を誤らなければ,人権状況の改善に大きく寄与するだろうが,誤ると,これは危険だ。暫定憲法は「高い道徳的資質」を求めるなど「道徳主義」的傾向が強く,下手をすると国家人権委員会は「道徳取締機関」となりかねない。

やはり,立法は議会,捜査は警察や法務総裁(検察),裁判は裁判所に委せるのが本筋だ。人権委員会まかせだと,最も厳格であるべき司法手続きがおろそかになり,人権委員会が人権の名で人権侵害をすることになりかねない。

(注)前文からの通し読みであり,見落としや誤りがあるかもしれません。試論としてご覧下さい。