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  暫定憲法(7) 革命拒否への執念
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 No.070519141627847221    07/05/19(Sat) 14:16   by  tanigawa [変更] [削除]
第17編 国家の形態と地方自治

1.国家の形態
新設の編。「進歩的国家再構築」を目指すことを規定。内容は,第4編第33条(d)と同じ。高次委員会(High Level Commission)の勧告に基づき,憲法制定議会が最終決定する。

2.地方自治
90年憲法には,地方自治の明確な規定はなかった。この編では,分権の原理に則った地方自治を規定。暫定地方自治体を7党とマオイストの合意により設立する。

中央政府と地方政府は,責任と資源を分け持ち,地方発展,とくに社会的,経済的に遅れた人々の開発を図る。

――この「国家の形態」は,いわばネパール版「美しい国へ」だ。日本の反動守旧型国家論よりはマシだが,ポストモダンを安易にネパールに持ち込むと,プリモダンに先祖帰りしてしまう。これは要注意。

地方自治の規定は必要だが,この点についても,合理的官僚制の確立が先決。権限と予算の合理的配分と執行の監視は不可欠だ。鉄の檻の中の先進国ポストモダニストにそそのかされ官僚制を問題にする前に,まずもって近代的合理的官僚制の構築が先決だ。


第18編 政党
90年憲法の「政治組織」を「政党」と改めた。政党活動の規制を禁止。ただし,選挙に出るためには政党登録が必要になる。

1.政党登録の要件
・憲法前文の精神に反しないこと
・組織の民主性。役員は包摂的(女性,ダリット,被抑圧階層等)
・宗教,カースト,民族,言語,性などで党員資格を差別しないこと
・宗教的・社会的調和の破壊や国家分裂をもたらす恐れのあるような目標や旗等を持たないこと
・非政党制,一党制を目標としないこと
・党員の「規律」のための制度をもつこと

2.登録
1万人以上の有権者署名を添え申請

――多文化主義の意気込みは分からぬではないが,この政党要件を本気で強制するつもりなら,つまり法的強制力を持たせるとすると,実際には大変だ。努力目標といったところか。


第19編 非常事態権限
非常事態宣言は,90年憲法では国王のもつ最も強大な権限であったが,この憲法では内閣(首相ではない)に移された。

内閣が宣言し,議会が2/3以上の多数で可決すれば,さらに3カ月間延長。否決されれば,そこで終了。

宣言後,内閣は非常事態命令を出すことができ,その間,第3編の基本的諸権利は停止される。

これは強大な権限である。国王がもつのと内閣(事実上,首相)がもつのと,ネパールの場合どちらが安全か? 一概に内閣とはいえない。そこが難しい。


第20編 軍に関する規定
軍については,90年憲法では雑則のなかの1か条で定めているにすぎなかったが,この憲法では独立の編にし,4か条で規定している。

1.内閣の指揮命令
内閣は,ネパール軍の総司令官を任命し,軍を運用する。また,政党の同意を得て,軍の民主化計画をつくり,実行する。兵員数,組織の民主性と包摂性,民主主義と人権のための訓練など。

2.国防会議
 議長=首相
 委員=国防大臣,内務大臣,首相指名の他の3大臣

国防会議による国軍動員の決定は,1カ月以内に立法議会の特別委員会の承認を得る。

3.マオイスト軍
国防会議は,特別委員会を設置し,マオイスト軍の監督,統合,社会復帰を図る。

4.その他
その他の軍に関する事柄は,「包括的和平協定」(2006.11.21)と「武器・兵員管理監視協定」(2006.12.8)の定めるところにしたがう。

――内閣の軍指揮権が明確に定められ,文民統制が法的に確立した。その一方,ここでも諸政党の同意がなければ,実際上,軍改革はできないようになっている。

マオイスト軍については,国軍への統合と社会復帰のいずれにするか,憲法は決めていない。これも,難しい問題だ。


第21編 憲法改正
90年憲法は,前文の精神(憲法の根本原理)は改正できないと定めていたが,この憲法は議会出席議員の2/3以上の多数で憲法のどの規定も改正できる。

この暫定憲法も,後述のように,復活議会による制定であり,90年憲法の「改正」といえなくもない。国王によって復活された議会が共和制憲法を作る。憲法改正限界説をとると,自己矛盾に陥る。そんなことへの配慮があったのかもしれない。


第22編 雑則
1.憲法会議
憲法設置機関の公務員の任命を勧告する。
 議長=首相
 委員=最高裁長官,立法議会議長,首相指名の3大臣

90年憲法では,野党指導者1名を入れていた。なぜ削除されたのか,不明。

2.大使任命,特赦など
90年憲法では国王権限だったが,いすれも内閣の権限となった。なぜ首相でないのか,不明。首相と書くと,首相が「国王」のように見えるからかもしれない。

第23編 経過規定
1.国王
国王,王室からは,すべての統治権限と,私財以外の全財産が剥奪された。
(1)統治に関する権限
国王の統治に関する権限は,特に定める場合をのぞき,すべて首相が行使する。首相は元首となり,それには当然国王が持っていた権威も伴う。

(2)財産
ビレンドラ国王,アイシュワルヤ王妃およびその家族の財産は,財団を設立し,国民のために政府が管理する。

ギャネンドラ国王の国王としての財産はすべて国有化。各地の王宮,森林,自然公園,歴史遺産など。

2.議会
既存の上院と下院は,この憲法の施行により解散となり,その当日,この憲法による立法議会の第1回会議が開会される。

3.司法
民主主義の観点から,司法の独立,公平,効率化のため,司法改革を進める。


第24編 定義


第25編 略称,施行及び廃止
この暫定憲法は,90年憲法による代議院(下院)が公布し,暫定立法議会が承認する。これにより,90年憲法は廃止される。


補足1 国旗
変更なし。ただし,国歌の規定は削除。国歌規定なし。

補足2 第167条(2)に関して
「包括的和平協定」(2006.11.21)と「兵器・兵員管理監視」合意(2006.12.8)による武器・兵員の管理監視が開始されたのち,この憲法は代議院(下院)が公布し,立法議会が承認(批准)する。

――第25編とこの補足2を見ると分かるように,ネパールの法的伝統は,法の継続性にこだわるという点では,すごい。歴史を切らない(革命にはしない)という執念は,見上げたものだ。

90年革命のときも,統治の継続性に固執し,90年憲法は形式的には62年憲法の改正憲法であり,法的継続性は維持された。

今回も。統治の継続性を断ち切り,革命にすることができたのに,それをしなかった。国王が下院を復活させ,復活議会が暫定憲法を作成・公布し,そして暫定憲法による暫定立法議会がこれを承認するという手続きをとった。屁理屈には違いない。やせ我慢といってもよい。

でも,これはエライ! この法的継続性への執念をもって,今度は創った法の遵守をお願いしたい。そうすれば,ネパールは立派な「法治国家」になるだろう。


(注)これは前文からの流し読みであり,見落としや誤りがあるかもしれません。気づいたところはあとで補足,訂正します。一つの試論としてご覧ください。