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  宮島喬『ヨーロッパ市民の誕生』(4)
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 No.070528204608885782    07/05/28(Mon) 20:46   by  tanigawa [変更] [削除]
5.「序章 なぜシティズンシップなのか」について
(1)シティズンシップの定義
プロローグでの問題提起を受け,序章ではまずシティズンシップが定義されている。シティズンシップには――
 (a)国籍
 (b)市民の諸権利
 (c)「個人が共同体に参加し,そこに一体化するある行為の型」(ダニエール・ローシャック)
の3つの意味がある。(a)(b)は一般的だが,本書ではむしろ(c)が重視される。人々が地域社会,国家,超国家的政治共同体など様々なレベルの共同体に参加し,そこで市民化し,「シティズンシップを実感する」(p3)。「つまり,主観的,客観的両面をもつ個人と共同体の関係の成立である」(p4)。

この関係,つまりシティズンシップは,多元的,複数的である。
・複数集団所属=国家,地域社会,職業集団,政党,教会など
・政治共同体所属=超国家共同体,国家,地域,市町村など
ここで,この関係が垂直的・一元的であるかどうか,また,客観的所属と主観的帰属意識(自己のアイデンティフィケーション)との異同が問題になってくる。

(2)シティズンシップの諸要素
本書によると,近代国家のシティズンシップの主な要素は,次の6つである(p4)。
 (a)平等な成員資格
 (b)意思決定への参加権
 (c)社会的保護と福祉
 (d)共同体帰属の公認(国籍など)
 (e)義務の履行(納税,兵役など)
 (f)共同体の正統性観念の共有
かつてシティズンシップからの排除理由は,女性と子供については主に(e),外国人については主に(d)であった。

ところが,本書によると,この数十年でシティズンシップの「契約的性格」が強調されるようになり,(c)(b)(d)(f)の規制がゆるめられてきた。「そしてかつてない要素として,国家を超える共同体,国家の内なる分節化された共同体の双方において,シティズンシップの観念が芽生えている」(p5)。ここで「かつてない」といわれているのは,おそらく近代主権国家の観念の下では,という意味であろう。

(3)米欧のシティズンシップの相違
このシティズンシップについて考えるには,本書も,私が先に指摘したのとほぼ同じ理由で,ヨーロッパの方が適切だと述べている。つまり,アメリカでは――
  様々な移民→メルティングポット→アメリカ市民
という考え方が基調にあり,ここからは外国人選挙権のような多様なシティズンシップの考え方は現れにくい。

これを私流に言い換えるなら,アメリカは「同化」を前提としており,「同化」による市民権は広く認めるが,その裏返しとして,「同化」できない人々の人権保障には冷淡だということである。

ところが,ヨーロッパは,そうはいかないと著者は考える。ヨーロッパには,ナチスやヴィシー政府によるユダヤ人迫害など,民族・文化の違いによる深刻な人権侵害の過去があり,「国家悪」への厳しい認識がある。

ここから,国家主権を制限し,ヨーロッパ統合を進める一方,国籍に関わりなく人権を保障しようとする動きも出てきた。その先駆的成果が,「ヨーロッパ人権条約」(1950)である。これは国籍,滞在の長短に関わりなく,「すべての人に対して」権利や自由を広く保障している。

(4)三種のアクターの登場
本書によれば,このヨーロッパに(a)地域,民族集団,(b)移民,(c)新たなライフスタイルを求める人々,という3種のアクターが現れ,新しいシティズンシップへの動きを加速させた。

(a)地域・民族集団
「地域ないし文化を焦点とする新しいシティズンシップ要求」(p10)。たとえば,ブルターニュ,ウェールズ,カタルーニャ,バスクのような地域の自治権,言語権の要求がそれで,これまで国家が独占してきたシティズンシップが,一方ではEUへ,他方では各地域に分権分化されつつある。
 ・EUシティズンシップ
 ・国家シティズンシップ
 ・地域シティズンシップ

(b)移民
第2次大戦後,ヨーロッパは「移民大陸」になった。各国には――
 ・旧植民地から
 ・契約労働者として
 ・難民として
大量の移民がやってきた。ヨーロッパ各国は,1980年代からこれらの人々の定住という現実を受け入れ,シティズンシップを拡大していく。
 ・西ドイツ=帰化請求権,地方参政権を含む外国人統合政策提案(1979)
 ・フランス=不正規滞在者の正規化特別立法(1981)
 ・オランダ=外国人参政権(1983)
 ・オランダ・ベルギー=出生地主義国籍法(1985)

(c)新しいライフスタイル
北欧を中心に新しい性や家族のスタイル,たとえば非法律婚や同性カップルなどの権利要求,あるいは立候補者の男女同数を義務づけるパリティなどが,シティズンシップの考え方を変えているという。

たしかにそうであろうが,このジェンダー論は,前述の(a)(b)の2アクターとはやや異質であり,ここでシティズンシップ論との関係で取り上げることには少し違和感を感じる。ジェンダーは第7章で扱われているので,この点についてはあとで検討することにしよう。