count:                 

日本国の法律を侵す内容、公序良俗に反する内容を含むものに関しては、連絡無しに削除する場合がありますので御了承下さい。
Since2006/06/09 Last update 2006/06/09 by nakamura
  新規投稿  |  最新に更新  |  全体表示  |  検索  |  ナマステボードTop  |  JN-NET TOP は画像付き  

  宮島喬『ヨーロッパ市民の誕生』(5)
[Web] [返信]
 No.070529204647706108    07/05/29(Tue) 20:46   by  tanigawa [変更] [削除]
此崑茖云蓮〆得犬垢襯諭璽轡腑鵝廚砲弔い

(1)ネーションとは
ネーションは「国民」であり、natoin stateは「国民国家」である。しかし、国民=国家というのは、近代主権国家の理念ないしイデオロギーであり、日本のようにそれに近い国はむしろまれで、1国家内に多数のネーションが存在するのが普通だ。本書によれば―

「ヨーロッパでの用法では、このネーションとは、国家という枠組みと一致する集団(国民)だけを意味するのではなく、生まれ(natio)を共にし、歴史的にある領域に居住する集団が、『われわれ意識』をもち、自らの共同体をつくろうという意志をもつとき、これをネーションと呼ぶ。」(p.20)

つまり、国民=国家ではないのだ。しかし、近代国家は1国家1国民を理念とし、領域内のさまざまなネーションを一つに統一しようとしてきた。最有力文化への同化、国民文化の形成である。ところが、それがここにきて再び逆転し、領域内ネーションが再生し始めた。過去40年間で自治を得たのは――

スコットランド、ウェールズ、カタルーニャ、バスク、ガリシア(スペイン)、コルシカ、フランデレン、ワロニー(ベルギー)、アルト・アーディジェ、ヴァッレ・ダオスダ、サルデーニャ(イタリア)、ジュラ(スイス)など(p18-19)。

(2)ネーション再生の諸要因
ネーション再生の主要因は、本書によれば次の4つ。
(a)中央―周辺の格差拡大
1950-60年代の高度経済成長の結果、中央―周辺の格差が拡大し、周辺地域がこれに不満を募らせ、地域アイデンティティを喚起した。
(b)分権化
上記(a)への対応として、国家が分権化政策を進めた。
(c)ヨーロッパ統合
EC、EU統合により国家主権が相対化。EUによる地域開発、地域振興。マーストリヒト条約の「地域委員会」(187委員)。
(d)民主化
スペイン権威主義体制の崩壊。民主化により、地域自治復活。

(3)文化中心の自治権
ここで注目すべきは、このネーション再生においては、独立国家を目指す「民族自決ナショナリズム」ではなく、「経済と並んで文化・言語の権利要求が中心となる」(p23)ということである。

(4)言語権
ヨーロッパにおけるネーション再生が文化中心だとすれば、文化の核心は言語だから、当然言語権の要求が中心になってくる。本書によれば、言語的に均質に近いアイスランド、ノルウェー、ポルトガルを除けば、ヨーロッパの多くの国が複数言語だ。そうした国々で、言語権の要求が高まってきたのである。
 ・「世界言語会議」バルセロナ、1996.8
 ・「地域言語、マイノリティ言語欧州憲章」1992
 ・「ヨーロッパ言語年」2001

この言語権の要求には、二つの特徴があると著者はいう。

(a)アイデンティティの要求
この点は特にネパールのような途上国における言語権の要求とかなり違い、注意を要する。

それは「自明とされてきた国民国家、国民文化のなかから、それらに還元・吸収されない地域枠組みや文化をあらためて取り出そうという自覚的な動きである。」(p25)
「近年の西ヨーロッパの言語要求は、国民国家的統合の時期を経たのちの多様性の追求である。」(p26)
つまり、共通語を前提とした上での、固有の言語の権利要求であり、「それは、自分に使えるコミュニケーション言語をめぐる排他的争いというより、むしろ文化・アイデンティティの実現の要求とみるべきであろう。」(p26)

むろん、こうした言語権の主張が政治化し、地域の分離独立、主権要求となる可能性はつねにあるだろうが、数百年の近代を経てきたヨーロッパにおいては、本書のような見方がおそらく妥当であろう。

ここにネパールとの違いがある。近代的主権国家形成も不十分な状況で、言語権の要求を強く打ち出すと、それは政治化され、分離主義化しがちだ。地域が独立し、国家の枠組みなしで存続しうるのなら、それもよいが、ヨーロッパですら国家の枠組みを残すことを当然の前提とした上での言語権の主張である。ネパールのような途上国は、これを見落としてはならないだろう。

(5)言語立法
言語権の要求にこたえるため、ヨーロッパではいくつかの法がつくられている。
(a)「地域言語・文化および民族マイノリティの諸権利に関する共同体憲章に向けての決議」欧州議会、1981
 ・学校(幼稚園〜大学)正規カリキュラムで地域言語・文化の教育。
 ・公的生活、社会生活での固有言語使用を可能とする。
(b)スペイン1978年憲法
 ・諸民族、諸地域の自治権(第2条)
 ・「スペインの言語的多様性は、文化的遺産であり、特別の尊重および保護の対象とする」(第3条)
(c)「バスク語使用正常化基本法」(バスク、1982)、「言語正常化法」(カタルーニャ、1983)、「言語政策に関する1998年1月7日法」(1998)
 ・固有言語使用の定着、拡大のための規則。
 ・公用語化(カタルーニャ語)
 ・初等教育の二言語化
(d)「ウェールズ言語法」(1967)、「1993年ウェールズ言語法」(1993)
 ・ウェールズ語と英語は同等。ウェールズ語使用を学校、社会で広める。二言語が原則。

――このようにみてくると、ヨーロッパにおけるネーション自治や多文化化、多言語化は、やはり近代の遺産の上に進められていることがわかる。

一つは、安定した国家の枠組み。どこかの地方が独自文化を主張しても、かつてのように外国が介入し中央政府と戦争になる、というような恐れはまずない。

もう一つは、ネーション自治をバックアップするEUの存在。各ネーションは、国家だけでなく、EUの枠の中にもある。国家とEUの二重の安全装置、ないし規制によって守られている。ネーションや固有文化は国家により守られる一方、EU(たとえば人権条約)により域内国家からも域外国家からも守られているのだ。

ネパールのような途上国が、安易にEUのまねをし(先進国知識人の実験台にされ)、多文化主義化を進めると、これらの二重の安全装置のいずれもまったく無いか不十分なため、たがが外れ、アナーキーの民族紛争になる恐れがある。ヨーロッパはダテに数百年の近代を過ごしてきたわけではない。

日本にとっても、外国人住民の多い地域では、固有の文化権、言語権など、つまりシティズンシップがすでに現実の問題となっている。教育や行政、司法の多文化化、永住外国人選挙権、あるいは健保・年金の加入権等々。日本でもシティズンシップの拡大はもはや避けては通れない課題となっているのである。