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  宮島喬『ヨーロッパ市民の誕生』(9)
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 No.070618181958699476    07/06/18(Mon) 18:19   by  tanigawa [変更] [削除]
I「第7章 家族,ジェンダー平等」について

1.私的領域の多様性を認めるシティズンシップへ
ヨーロッパのシティズンシップは,ジェンダー差別撤廃や家族の多様性容認によっても,促進されている。では,なぜジェンダーや家族のあり方がシティズンシップの問題になるのか。本書によれば――

「これまで『市民』とは,政治的意味での主権の行使と結びつけられてきた。しかし政治的に主権行使者である市民が,『私的』領域で自分のアイデンティティ,ライフスタイル,文化選択,さらには性的指向のために,社会的権利の行使が妨げられるとする。そのような個人が数の上でも無視できないものになり,その要求が切実なものとなれば,『私的』である問題も公的な場で解決されなければならなくなる」(p149)。

この点について,先進的であったのは北欧,これに対し遅れていたのがフランスやスイスであった。たとえば――

・スイス=女性参政権,1974年から。
・フランス=女性参政権,1944年から。
      夫の許可なく就職あるいは銀行口座開設が可能,1965年から。
      パリ証券取引所への入場が可能,1967年から。

そこで,フランスでもジェンダー差別を撤廃し家族の多様性を容認し,シティズンシップを拡大していくための努力がなされてきた。

2.民事連帯法(1999)
「法的な婚姻関係にないが共同生活を営む二人の異性または同性に,法的婚姻状態にあるカップルと同等の権利を認めるというもの」(p148)。

この民事連帯契約が認められると,事実婚夫婦でも同性結婚でも,税法(控除,相続等),社会保障,住宅,国籍取得など,多くの権利が一般の夫婦と同等に認められる。

同性カップルは,デンマーク,ノルウェー,スウェーデン,オランダ,ベルギー,フィンランド,ドイツではすでに認められていた。フランスもそれにならうことになったのだ。そしてEU議会も2003年年次報告で,すべての同性愛者が結婚と養子の権利を認められるべきだと述べた(p165)。

3.男女同数制(パリティ)
1999年,フランス憲法に「議員の職,および選挙に基づく公職への女性と男性の均等な接近を,法律によって促進する」という条項(第3条5)を追加された。

もともとフランスの女性議員は少なかった。国民議会(下院)10.9%(1997),元老院(上院)5.6%(1997)。そこでパリティが制定され,2001年3月の比例制の地方選(候補者リストは男女同数とする)から実施されるようになった。ただし国民議会は小選挙区制なので対象外(p156)。

しかし,このパリティに対しては,「フランス国民の一体不可分」の大原則に反するとして反対も強く,憲法院も違憲判決を出していた。その結果,憲法そのものが改正されることになったが,国民をすべて「平等」に扱うか,それとも男女のような区別や層別を設け特別な扱いをするかは,原理的な問題として残っている(p160)。

しかし,全体的な方向としては,EUではジェンダー差別の撤廃,家族の多様なあり方の容認の方向にむけてシティズンシップが拡大されてきたことは確かである。



II「第8章 逆風とチャレンジ」について

著者によると,ヨーロッパでは1990年代にナショナル・マイノリティやEU諸国出身移民との共生が進み,排斥の動きは見られなくなったが,非西欧移民・難民の敵視は続き,また多文化主義政策も逆風にさらされるようになった(p168)。

1.イギリス
イギリスではサッチャー時代(1979-90)にイングランド中心主義をとり,1983年「国籍法」を施行した。
 イギリス人=(1)イギリス市民・・・正規のシティズンシップ
       (2)イギリス領民
       (3)イギリス海外市民
これは,有色移民制限が目的であり,「制度レイシズム」と批判された。

ブレア政権(1997-)になって,「スコットランド議会」「ウェールズ議会」が設置され,自治が拡大。しかし,今後の政権がどの方向に向かうかは,予断を許さない。

2.フランス
ジョクス法(1991)でコルシカの自治権の強化を図ったが,第1条の「フランス人民の構成要素たるコルシカ人民」が問題にされ,憲法院は,「フランス人民は単一不可分」を理由に違憲と判決。フランスでは,複数制,多様性の扱いが依然として問題となっている(p172)。

また,1992年には,「共和国の言語はフランス語である」を憲法に追加。これは「地域言語,マイノリティ言語欧州憲章」(1992)と対立する。ジョスパン政府は,1999年,留保をつけ,この憲章に署名。

これに対し,フランス憲法院は,フランス人民の単一性の原則は集団的権利の承認とは相容れない,憲法のフランス語公用語規定にも反する,としてこの欧州憲章条項を憲法違反と判定した(p173)。

これは国家をどう見るかの原理的対立であり,決着は容易ではない。

3.ドイツ
ドイツは難民増加に対し,ネオナチなどが移民排斥を煽り,政府も受け入れに慎重になってきた。

1993年「基本法」が改正され,「迫害のない国」から来た者,「安全な第3国」経由の者には庇護権を認めないことになった。また,本人が迫害の事実を示さなければ,庇護申し立てはできない。これにより,庇護申し立ては,前年比40%にまで激減した(p176-177)。

4.反移民右派政党の台頭
国民戦線(FN)=欧州議会選挙で11%得票(1984),ドゥルー市議選で17%得票(1983)
        大統領選でルペン党首が第2位(2002)
共和党(ドイツ)=西ベルリン市議選で7.5%得票(1989)
フランデレン連合(ベルギー)=総選挙で10%得票(1991)
自由党(オーストリア)=ハイダー党首,移民規制
フォルタウィン党(オランダ)=イスラム系移民排斥
人民党(デンマーク)=右翼政党
自由党(スウェーデン)=移民の統合

5.世論の右傾化
世論も,失業などを背景に,移民や外国人参政権について否定的になりつつある。オランダでは,「移民政策」(1989)が多文化主義政策を批判し,オランダ語優位で社会統合を進めよと提言。ドイツでは,二重国籍容認から否定に転換。外国人参政権要求は後退し,帰化(国籍取得)モデルになった。このように,移民問題がいつまでも問題になるのはなぜか。

「移民たちはすでに二世,三世の時代になっても失業,言語的不自由,学校のドロップアウトなど社会参加が困難な状況にあり,それが彼らの怠惰や依存心の問題とされる。くわえて,EU拡大を控え,東方から大量の移民(中国人なども含め)がやってくると報道される。「9・11テロ」が,移民の扱いに影響したことも否定できず,殊にイスラームとみられる移民への規制強化をいう声の前に,人権への配慮を訴える声は時にかき消されがちである。」(p189)

――以上のように,ヨーロッパでは,多文化主義によるシティズンシップ拡大の動きと,それに対する反対の動きがせめぎ合っている。これは,公的領域と私的領域の関係,あるいは個人―諸集団―自治体―国家―EUの相互関係の問題であり,容易に決着がつくはずはない。大勢として多文化共生シティズンシップに向かっていることは間違いないが,試行錯誤はなお続くであろう。


III「エピローグ」について

最後のエピローグでは,本書全体の内容が要約されている。簡潔な文章なので,要点をそのまま引用し,もう一度本書の議論を確認しておきたい。

「ヨーロッパでは,「国民国家」のあり方への問い直しが他の世界でも例がないほど自覚的に行なわれ,政治的分権化,文化的多元化,そして国家を超える新しいコミュニティが追求されている。・・・・

過去への反省と思想的伝統との関連で,人権はつねに重みをもっている。・・・・ヨーロッパ人権条約などが象徴的であり,人権,人道の原理が,しばしば制定法に優先し,難民受け入れや「不法」滞在者の正規化に示されてきた。

以上とならんで,国籍の相対化が,シティズンシップの意味を変えてきた。それぞれの歴史的事情から出生地主義や重国籍を容認してきた国,外国人労働者の定住化をうけて新たに出生地主義を加味するにいたった国などがある。定住の権利,社会的諸権利を承認し,それに国籍法も合わせようというものである。

さらに,文化的多様性の感覚も注目される。1960年代以降の分権化と,ヨーロッパ統合がこれを促進し,この感覚は市民にも浸透している。国民文化の次元はあいかわらず強く,逆に「ヨーロッパ」の文化次元はまだ暖昧ではあるが,地域・民族の次元は重要性もつようになっている。・・・・

この多様性の容認は「マイノリティの権利」を認めることにも通じる。主流文化に対し,そうでない文化の存在がみとめられるとき,後者の権利への顧慮が働く。その権利を具体化する際には,マイノリティ集団の権利ではなく,マイノリティに属する人々の権利として認められるのが一般的で,個人主義を重んじるヨーロッパらしい方向づけである。しかし彼らのこうむっている不利が構造的であるとき,状況を変え平等に近づけるのに,集団またはカテゴリーとしての権利を認める例もある。

そして,シティズンシップの行使の身近な場としての地域,自治体の役割,およびエンパワーメント施策の必要についても確認してきた。」(傍点略,p193-194)


将検,わりに

以上,宮島喬『ヨーロッパ市民の誕生』を最初から最後までかなり詳しく読んできた。

私は,一度もヨーロッパ大陸にいったことはなく,またEUを研究しているわけでもない。この本を大変興味深く読ませていただいたが,誤読や誤解があるかもしれない。それは,もちろんすべて私の責任である。

また,本書を読みながら,随所で私自身の自由な感想を述べた。私の文章や意見はできる限り区別したつもりだが,あいまいな部分があるかもしれない。あまりよい読者とはいえず,この点でも著者にお詫びしたい。

本書からは多くのことを学ばせていただいた。著者には他にも『文化と不平等』『一つのヨーロッパ,いくつものヨーロッパ』などの著書がある。それらも機会があれば読ませていただきたいと思っている。