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  ネパール平和構築と日本の役割(1)
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 No.070906132408946151    07/09/06(Thu) 13:24   by  tanigawa [変更] [削除]
1.平和構築の見通し
 ネパールの平和構築は,短期的には悲観的な状況だが,長期的に見ると,成功の可能性は高い。

1−1.悲観的なシナリオ
 現在の8党は,反国王では一致していても,それ以外の点ではほとんど一致していない。否定では合意しても,積極的建設では合意できていない。平和再建は,基本諸原則で合意し,他の具体的な政策では政治的妥協をすることによってのみ,達成できる。今のところ,8党はその基本諸原則ですら合意できておらず,したがって政治的妥協も出来ない状況にある。
 政治は「可能性の技術」であり,議会は政治的妥協の場である。この議会における政治的妥協は,社会が経済的,文化的に大きく分裂しているところでは不可能だ。いまのネパールは,残念ながら開発格差が大きく,議会での政治的妥協が困難な状況だ。
 開発格差は,客観的および主観的な格差である。1990年以降の経済自由化で,ネパールの開発格差は急拡大した。それは諸統計により客観的に裏付けられている。ネパールは開発格差を示すジニ係数の悪化がアジアでは中国の次に大きい。実質的には,ネパールの開発格差はアジアで最悪と言ってよい。一方,教育の普及と情報化により,地方の人々もカトマンズの繁栄や,東京,ニューヨークなどのけた外れに豊かな生活を見聞きするようになった。地方の貧しく苦しい生活とカトマンズの豊かな生活,あるいは東京の夢のような生活。両者の格差は巨大だ。格差は主観的・心理的なものでもある。
 この3月,チトワンで衝撃的な光景を見た。広大な麦畑で,多くの家族が総出で伝統的な方法で小麦を収穫していた。突然,その隣の畑に巨大なコンバインが現れ,あっという間に広大な麦畑の収穫を終えてしまった。1台のコンバインは,数百人あるいは千人以上の農民の仕事をする。コンバインを買うことの出来る豊かな農家はますます豊かになり,買えない貧しい農家はますます貧しくなる。コンバインにより,多くの農業労働者が解雇され,失業者になっていく。かつてエンクロージャーの時代の英国では羊が人間を食ったが,ネパールのタライではコンバインが農民を食っている。
 これは農業だけではない。経済自由化により,同じようなことが至るところで起こっている。経済活動の近代化,合理化がネパールでも大量の失業者を生み,客観的格差を拡大し,また心理的格差意識を強化している。
 こうした大きな客観的格差,主観的格差意識があり,社会が分裂しているところでは,議会における政治的妥協は困難だ。たとえマオイストがこのまま主流に入り指導者たちが議会で妥協することを望んでも,生活苦の支持者たちがそれを認めない。その結果,マオイストはもう一度,議会外闘争に戻るか,それとも分裂して,急進派が新たな組織を作り実力闘争を始めることになるだろう。
 開発格差のドラスチックな縮小がすぐには困難だとすると,ネパールにおける平和構築はしばらくは期待できないことになる。これが悲観的シナリオをである。

1−2.楽観的シナリオ
 しかし,以上の見方は,あまりにも悲観的にすぎる。私のような部外者から見ると,ネパール社会は驚くほど急速に変化し,発展している。民主化のためイギリスは400年以上かかった。日本でも百数十年かかった。これに対し,ネパール民主主義の歴史は,1951年以降,あるいは厳密には1990年以降であり,わずか十数年しかない。しかし,この十数年の間に,ネパールは政治的にも経済的にも驚くべき発展を遂げた。このネパール人民の政治的経済的能力は正当に評価されるべきである。
 また中間層も,都市部から着実に増加している。中間層を主要な担い手とする市民社会が力を持つようになれば,社会は安定し,民主主義も成熟していく。
 国際環境についてみると,これは劇的に好転した。インドと中国は平和共存を確認し,経済関係を強化しつつある。インドも中国も,ネパールを代理戦争の手段として使う必要はほとんどなくなった。このインド・中国関係の好転を背景に,インドはネパールへの国連介入を認め,これにより国際社会はネパール平和構築を積極的に支援することが出来るようになった。いまインドも中国もアメリカもネパールの平和を望んでいる。これはネパールのような国際関係に敏感な国にとっては,平和実現への絶好の条件が整ったということを意味する。
 むろん開発格差に起因する多くの問題を一気に解決することは現実的には不可能だ。大切なのは,ネパールの人々が,それらの問題の解決に向かってネパールが一歩一歩前進しているということを実感し確信すること。現状に多くの不満があっても,改善への希望があれば,人々は平和のための妥協を受け入れることが出来る。第二次大戦直後の日本は,都市を破壊し尽くされ,いまのネパールよりもはるかに劣悪な経済状況だった。多くの人々は食料も衣服も家もなく,非常に厳しい生活を余儀なくされた。しかし,この時アメリカは非常に寛容であり,日本の安定のために多くの援助をし,日本人は未来への希望を持ち,アナーキーやクーデターを防止できた。明日への希望がどん底の日本人を救った。
 ネパールのいまの諸問題を一気に解決する魔法の解決策はない。どの政党が権力を取ろうと,ネパールの人々の苦しい生活は続く。大切なのは,ネパールの政府,諸政党,市民社会が,国際社会と協力し,人民に未来は少しずつ良くなるというたしかな希望を与えること。これは出来る。それが出来さえすれば,平和は実現される。
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(写真)タメルの牛祭り